何を書くか

*この項目は、Research preparation wheel作成前に書いたものです。若干ニュアンスは違いますが、ほぼ同じことを言っています。

 

Step 1

疑問や仮説をもとに、あるテーマ(主題)を決めたとします。そうしたら、そのテーマについてこれまでわかっていること(What is already known.)を調べます。そして、その外は、まだわかっていないこと(What is yet unknown.)です。

Step 2

もともとの疑問・仮説が検証できたら、まだわかってないことの中で、わかることが何であるか(What your study will add.)を考えます。もしそれがあるのなら、その研究は「する」意味があります。

Step 3

What this study will add.が「当初の研究疑問・仮説通りできるか」考えます。それができなければ、もう少し研究疑問・仮説を現実にできるものに変えていきます。理論的には「データが良くてさらに突っ込んだ疑問・仮説にレベルアップできる」ことも考えられますが、残念ながらこれはきわめて少ないです。「全知全能の神」ならぬ私たちは、現実の世界でベストを尽くすしかありません。

Step 4

Step 3で考えた、実行可能な研究デザイン、測定可能なアウトカムで、「それでもなおする価値があるか」、つまり伝えるべきメッセージがあるか再考する。具体的にたとえば、予想される結果が先行研究でまだ言われてない、調べられてなければ大丈夫でしょう。

Step 5

そのメッセージが、検証可能で明確な1文になるか考える。

高齢者の外出活動性低下は、早期死亡の危険因子である

胸部X線上の心胸郭比は、加齢により増加する

これがタイトルの原案となります、さあスタートアップです!

 

<例1>

縦断的研究のこの論文ですが、同じテーマで男性では行われていました(Titleもほとんど同じ)。しかし、高齢女性では骨粗鬆症などで脊椎骨高の減少など、男性とは違う生理的変化があります。なので論文として認められたのだと思います。

 

Informal talk(ぶっちゃけ話)

上述のStepで説明したように、最終的には「することに妥当性と意義があるか(relevance and significance)」を考えます。実はその研究が最後までいくかどうかのInformalな判断基準があります。それは、「していて楽しいかどうか」です。

 

ではこのときに、妥当性や意義についてまだいくばくかの不安が残っていたらどうでしょうか、すべきではないでしょうか。研究者を内部から駆り立てるものがあれば楽しいはずで、もう少し先に進んでみるべきだと思います。

「やってごらん、そしたらわかるさ」

 

なお、研究の初心者で、経験者の研究に参加しているときは逆で、あまり楽しくないと感じるかもしれません。このときは、「自分はこの研究に参加することでいろんなノウハウを学ぶのだ」と割り切りましょう。でなければ、いつまでたっても研究の各論は身につきません。大学院で学生が学ぶのは、一見自分の研究とは関係がなくても、そういう意味があるのです。

Themeの探し方:Inoue Methods作成者の場合

Cutting edge(刃の先端)、転じて最先端
Cutting edge(刃の先端)、転じて最先端

簡単に言えば、興味ある分野の雑誌をチェックすることですが主に2つの方法で見つけます。

 

1.Journalのメールアラート機能を使って配信される論文をチェック

2.時々、雑誌のサイトでタイトルをチェック(時にはキーワードで検索)

無論、2でも最近の雑誌に限定します。なぜこれがいいかというと、以下がわかるからです。

 

'What is newly known as the cutting edge or the topic to be discussed' (新しく最先端として、あるいは論じるべきトピックとしてわかったこと)

 

もしそのトピックに自分たちの研究がさらに少しでも何か付け加えられそうだったら、後は進むだけです。

 

最近この方法で、糖尿病分野でまた2つのアイデアを発見しました(まだ内緒です、でも絶対に論文になります^^)。

Hints:i.新しい診断基準、ii.予測因子の評価

The topic to be discussed

先ほどの記載で、'cutting edge'つまり最先端のほうは容易にわかると思います。では後者、'topic to be discussed'つまり論じられるべきトピックのほうはどうでしょうか。少しわかりにくいかもしれませんので、例をあげます。

 

Submission experience

Inoue K, Matsumoto M, Akimoto K. The threshold for definition of impaired fasting glucose in a Japanese population. Diabet Med. 2009 Nov;26(11):1175-8.

Short reportです。ADA(米国糖尿病学会)がImpaired fasting glucose(IFG)の基準値を100mg/dl(5.6 mmol/l)に下げたとき、Inoue Methods作成者はこう思いました。

 

「随分思い切ったことをするなあ、これでIFGと判定される人が何倍も増えてしまうぞ」

 

予想通り、この基準が健康診断に採用されて、境界域すなわちIFGと診断される人が増え、健診の現場ではかなりの影響が出ました。

 

メタボリック症候群の診断基準でもそうですが、よしんばそれが科学的に正しい面があったとしても、ラベリングをするメリット、デメリットはしっかりと検討されなければなりません。特にIFGやメタボリック症候群などの糖尿病や心血管疾患を発症する以前の人々についてはそうだと思います(ちなみに、メタボリック症候群の特定健診や特定保健指導の策定については、こういう視点に欠けていた面があります)。

 

そう思っていたら、やはり同様の危惧から来る動きがありました。JDS(日本糖尿病学会)やEDEG(欧州糖尿病疫学研究班?)などから、新しくADAがIFGに含めた空腹時血糖値100-109mg/dlの集団はそれ以上の血糖値のIFG集団と同様に扱われるべきではなく、例えばJDSではHigher normoglycemia(正常範囲の高血糖)という概念を提唱しています。

 

そこで、これらの議論について自分の持てるデータで分析してみました。結果として、糖尿病発症を予測する、ROC曲線での最適カットオフ値は102-103mg/dlと、ADAの提唱する値(100mg/dl)に近かったのですが、やはりIFGと判断される人が数倍に増えていました。それで結論として後者に沿った意見を記載しました。

 

研究時点での最新の議論は、良い論文テーマになる

The current disucussion could be a good theme to write.