歯周炎があれば血圧上昇がみられる

 歯周炎では血圧が高い(健診時および1年後)
 歯周炎では血圧が高い(健診時および1年後)

Inoue K, Kobayashi Y, Hanamura H, Toyokawa S. Association of periodontitis with increased white blood cell count and blood pressure. Blood Pressure. 2005;14:53-8.

 

バックグラウンドストーリー

これは、産業保健現場でのPractice based researchです。私(井上和男)は、以前から口腔衛生に臨床医として興味を持っていました。8020運動を例にあげるまでもなく、人々の生活の質を考えれば重要なテーマです。

 

産業医として自分自身が事業所の歯科健診を積極的に受け、従業員にも勧めていました。従業員の健康管理の一環として、事業所健診のデータを調べていたところ、定期健康診断に加えて、歯科健診のデータがあることを知りました。それは健康管理室のスタッフの一言がきっかけでした。歯周炎は「口腔の生活習慣病」といわれ、成人以降の歯牙喪失の主因となっている一方、心血管疾患など「生活習慣病」に炎症機転が関わっているという報告が増えています。歯周炎は慢性炎症の中で代表的なものであり、歯周炎と生活習慣病の危険因子である血圧上昇との関連を調査しました。研究にあたっては健診を担当した歯科医と共同で行い、アドバイスを得ました。なお、データの結合にあたってはリレーショナルデータベースソフトウェア(MS ACCESS)を使用しています。

 

論文内容:2002年春に歯科健診を受け、かつ2002年および2003年春に基本健診を受けた、1事業所の従業員364名について歯周炎と血圧および血液中白血球数の関連を調べた。55(15.1%)が歯周炎を有していた。歯周炎群は非歯周炎群に比較して2002年および2003年の平均白血球数および血圧(収縮期および拡張期)が高く、その結果は性別、年齢、肥満度(body mass index)、喫煙、飲酒などの交絡因子を調整しても同様であった。従って、本研究は歯周炎が心血管疾患に関与しうる可能性を示した。

 

この研究はそれ以降、また別の事業所で共同研究として、口腔衛生と生活習慣病の関連を調べることにつながりました。

 

*この研究は歯周炎評価時と1年後の血圧を評価していますが、やはり横断的研究です。それでも、研究者として問題提示はできたかなと思っています。

 

掲載社内誌ページ(クリックで拡大)
掲載社内誌ページ(クリックで拡大)

従業員の人々にこの結果をフィードバックするため、結果を社内誌に掲載しました。産業医として現場で働く人々の健康増進や教育に、実際のデータを基にして関わることができるという産業医としてのやりがいを感じました。

 

「PBRでは研究結果を、人々に返すことができる」

 

査読をクリアして論文になっていく

なかなか厳しいコメント(でもめげちゃいけない!)
なかなか厳しいコメント(でもめげちゃいけない!)

遡りますが、この論文での査読の一部を掲示します。要するに、「歯周炎でのこうした研究は沢山出ていて、独創性が少ないと言われているわけです。これは初稿のコメントですが、こういう査読を経て、著者が「うーん、がんばろ!」と改訂稿を作り、場合によっては何度もやりとりして論文になっていきます。

Microsoft ACCESSの活用

定期健康診断と歯科健診のデータ、それは別々に保存されていました。

そこで、リレーショナルデータベースソフトウェアのACCESSを使って、この2つのデータを学会させました。

各々だけでは、「なんてことない」データです。単独では、調べ尽くされたことしか言えなかっただろうと思います。

 

「なんてことないデータでも、合わさる事によって新しいデータセットとなる」

それで、自分の言いたいことが言えればそれでOKですね。