Case Series:成人におけるParvovirus B19感染症
Waza K, Inoue K, Matsumura S. Symptoms associated with parvovirus B19 infection in adults: a pilot study. Internal medicine 2007;46:1975-8.
CONCLUSIONS:
Parvovirus B19 infection in adults can be efficiently diagnosed in primary care settings by observing clinical symptoms such as edema, joint pain, and rash, and by asking patients about their contact with children who have erythema infectiosum.
要旨:
成人型伝染性紅斑(リンゴ病)、つまりヒトParvovirus B19感染症の臨床像はあまり知られていなかった。どちらかというと小児の病気と思われていたからである(実際は成人もかかる)。プライマリケアの現場で症例を蓄積し研究を行った。リンゴ病を発症した小児との接触歴に加え、浮腫・関節痛・発疹などがあればParvovirus B19感染症を疑うこと、それによって膠原病・リウマチ・不明熱などと診断されていた症例が正しくParvovirus B19感染症とされうるという知見を提供した。
現在ではこの論文は、臨床医学の大きな情報データベースであるUptoDateに引用されている。臨床家の思いから発し、日常臨床に有用な知見を提供できるのが、Practice based researchの特質である。
バックグラウンドストーリー
開業医でプライマリケアを実践している友人から、連絡がありました。「今年はリンゴ病が大人でも多くて、中には他で別の疾患と診断されてくる人もいる。報告したいけど」と。私(井上和男)は即座に、「それはとてもいいことだからぜひ論文にしてください」と話しました。実はその数年前に、こんなことがありました。
世話になったご夫婦の娘さんが、ある医学部の教員と結婚して家庭を持っていました。私に電話がかかってきたのです、「主人が原因不明の発熱、発疹と関節痛で、いろいろ調べてもらっているけどわからない。皮膚生検とかもっと詳細な検査が必要と言われていてどうしたらいいですか?」
私は海外のFamily Medicine Programmeなどで、成人でもリンゴ病(Parvovirus B19感染症)があること、診療所でも成人例を診たことがあるので、娘さんにこう聞きました、「もしかして子供さんたち、リンゴ病にかかっていない? そしたらそんなことしなくても、簡単な血液検査でわかるよ」そうすると、「最近かかった子供がいる!」その後医学部で検査して、IgM抗体価の上昇がみられ、診断されたそうです。
勿論「成人のリンゴ病? そんなの知ってるよ」と思う人も大勢いるでしょう。しかしながら成人だけ診察している診療科では、なかなか思い当たらないものなのです。臨床症状と、簡単な接触歴だけ聞くことで次に進むことができる。臨床家の思いが、有益な情報になったからこそ、論文になったのだと思います。
この論文は、カテゴリーとしては、Case reportないしCase Seriesです。EBMの立場からしたら、かなり低いほうのエビデンスレベルです。ですが、臨床家としての研究者の思いは語ることができています。この後に研究がされるとすれば、プライマリ・ケアレベルでの臨床症状のスペクトラムや頻度、接触と言うExposureに対しての感受性を左右する因子などがあるでしょう。
「日常診療で通り過ぎていくところに、PBRのテーマはある」
Later development(後日譚)
実はこの自分たちの論文を読み返していて、別のメッセージ、別のテーマに気づきました。それは、「家庭医のように、成人も子供もみているジェネラリストであれば、より気付くであろう。家庭全体を対象としているからなおさらである」です。Discussionに書けばよかったかな、と思っています。Patient (family) centered methodsを、借り物や理念だけでなく実際に語ることができました、惜しい!
論文Correnpondence(Author同士)
Wordのファイルで、コメント付きをPDF化しています。このようなプロセスを何度も繰り返し、また査読結果を受けてやりとりし、論文になっていきます。このバージョンは完成に近いもので、以前のバージョンはもっとコメントが付きます。
まず論文として掲載されたものを見た上で、それまでの途中経過をご覧ください。
*Internal Medicineの出版先(日本内科学会)および共著者の了承済み