高齢者の外出活動性と死亡との関係

往診の途中の風景
往診の途中の風景

Inoue K, Shono T, Matsumoto M. Absence of outdoor activity and mortality risk in older adults living at home. Journal of Aging and Physical Activity 2006;18:203-11.

 

和文要旨

本論文は、地域在住高齢者において戸外での活動性低下が死亡リスク増加と関連しているかを検討した前向き研究である。1995年に高知県十和村で65歳以上であった高齢者863名について、5年間追跡調査した。その結果、3つのタイプの戸外活動性低下のいずれもが、追跡期間内の死亡と有意に関連しており、この結果は年齢、性別、あるいはより基本的な日常生活動作などで調整しても同様であった。したがって、戸外活動性を評価することは死亡リスクの高い高齢者を同定する上で有用と結論づけた。

 

バックグラウンドストーリー

以前から思っていました。誰でもそうですが、高齢者は特に外にいることが必要であると。同じ年齢、見た目は同じであっても、何かが違う。勿論、「寝たきり」であれば外に出られないわけですが、特に外出などに問題がなさそうでもそうしている人とそうしてない人では違う。「元気でないから出られない、その人たちが先に死ぬ、それだけじゃないか」という鶏が先か卵が先かは、これは調べてみなければわかりません。

 

私(井上和男)が赴任していた十和村では、1995年に来るべき介護保険などを見据えて、高齢者のサービス需要調査が行われました。3500人の村の65歳以上の高齢者、約1,000人です。そこで2000年までの5年間で死亡というイベントを追跡する、Outcome researchを行いました。そういう意味では、この研究はCommunity based researchの要素も持っています。

研究疑問の具体化プロセス(臨床現場への落とし込み)

「外にいるほうが高齢者は元気」

       ↓

「外にいる=外出している、元気ならば長生きだろう」

       ↓

「外出しているのはどうやって計測?→外出の範囲、手段、意志」

       ↓

「外出活動性をベースにとり、死亡を追う」

(むろん年齢や性、他の死亡に影響を与える因子を考慮)

 

行政の協力も取り付け、5年間の追跡率は85%(→Inoue Methods, Results)となりました。無論、観察研究ですから、外出するように積極的に介入することが良いかはわかりません。しかしながら、一つの示唆は与えられたかなと思っています。

 

なお、ベースラインデータで、外出活動性(逆は閉じこもり、homebound status)と他の高齢者の特性との関連を調べました。

Inoue K, Matsumoto M. Homebound status in a community-dwelling elderly population in Japan. Asia-Pacific Journal of Public Health 2001;13:109-15.

Conclusion

Homebound elderly people have more functional limitation and disability related factor than their nonhomebound counterparts. Functional impairment, particularly in the mobility domain and sensory disturbances, was associated with homebound status. These data indicate the importance of assessment in the provision of home care for elderly people.

また、研究者としては、もう一つのアウトカムを考えていました。

「(施設などに入らず)家で生活できていてほしい」

ですので施設入居を別のアウトカムとして追跡し、これも論文として発表しています。

Matsumoto M, Inoue K. Predictors of institutionalization in elderly people living at home: the impact of incontinence and commode use in rural Japan. Journal of Cross-cultural Gerontology 2007;22:421-32.

タイトル和訳 自宅在住高齢者の施設入居の予測因子 :失禁とポータブルトイレの影響

 

「臨床家の思いを語るのが、PBRである」

Later development(後日譚)

2つの論文が出て、2-3年たったころ、「しまった!」と思うことがありました。

 

健康日本21の健康寿命と同じく、誰もが比較的元気で長生きしたい、できればいつまでも自分の家で、と願っていると思います。単なる死亡なら、寿命を見るのみです。そこで、健康寿命と同一ではないけれど、

 

「施設に入居せずに長生きすることと関連する因子」が、2つの研究結果の上にさらに調べられたはずです。もしこのような調査が可能な研究者がいたら、ぜひ行ってほしいものです。