大学院で心しておくことQ&A

サブタイトル:良き大学院や指導教官を選ぶために

以前から気づいていて、なおかつ最近感じたことですが、大学院での学びについて悩んでいる人があまりにも多いです。このサイトの処々にも書いてありますが、IM MentorとしてQ&A形式で大学院の学びについて記載します。なお、医療系の大学院に限定される話もあるかもしれません、そこのところは留意ください。しかし全体としては全ての分野の大学院にいえる普遍的な事項です。また本当のところを、「自分の知己や友人の子弟にアドバイスする」つもりで書いています。

 

Q1 大学院とはどういうところですか

A1 学部教育を終えて基礎知識を得た人が、目指す分野でのより高い研鑽をする場所です。学部教育まではどちらかというと受け身ですが、大学院では自分自身で動機づけを行い自主的に学んでいくことになります。したがって単位をきちんととって履修していくことは無論ですが、「本人のモチベーションに基づいた自由な学び」が得られることが必須で、それは院生の権利でもあります。

 

Q2 大学院での学びとは何でしょう

A1 必要な指導を受けながら、独立した研究者を目指します。「大学院でまだ指導を受けるつもりでいるのか」とは、よく指導能力(後述)のない指導教官が言い訳に使いますが、間違いですね。ならば大学院に入る必要は本来的にはありません。そして、学部教育を修めた人が、その上に行くのに適切な指導助言が必要なのは言うまでもありません。

 

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Q2' でも指導教官から「以前の院生は何もしなくても育った」と言われました。

A2' その院生は2つの可能性があります。一つは、「本当に最初から自立できるくらい優秀であった」。もう一つは、こちらのほうが比重が大きいと思いますが「指導教官から教わることが何もなかったand/or教えてくれなかった」。実際にはこの2つが成立しうる院生は「何もしなくても育つ」のでしょう。言い換えれば、指導教官から学ぶ必要がなかった、and/orもともと指導教官よりも潜在能力が高かったのだと思います。本当の実力と経験を兼ね備えた指導教官*なら、少なくとも在学中に院生が何も学ぶことがないなどあり得ません。相対的に指導教官の能力が低いほど「なにも育つように見える」院生が増えます。しかし、学びの成果は本当の指導教官についた場合とは比べ物になりません。院生一人の学びでは得られないものも、沢山あるのですから。

*IM Mentorがこうかどうかは別にして、これまで指導した若手で、何も教えることのなかった人はいません。また、同等レベルまで育ってくれた弟子は現在1名だけです。自分自身現役として走っていますので、距離は縮まるかもしれませんが、若手の見る方向の先に居続けたいものだと思っています。

 

Q3 大学院の具体的な到達目標は?

A3 理念はA2に書いた通りです。具体的には「独立した研究者としてのスターターライセンス」としての学位取得を目指します。取得には、必要な履修コースを学んだことと、多くでは学位論文を提出・審査を受けて認定されることが必要です。なお、学位取得には各大学院での規定がありますので、入学前に読んでおくことは無論です。例えば、満期退学と言って、学習年数を終えてからも審査を受ける権利は数年間保持できるようになっています。

 

Q4 大学院に入る人の適性について教えてください

A4 Inoue Methodsに書いている研究者の資質と同じですが、人間性としては、独立心をもっている、素直である、こだわりがない、学びに対して積極的であるなどでしょうか。教官の立場から言うと、responsiveすなわち指導に即座に反応することが重要です。教えてやろうという気になります。

 

Q5 どのような大学院を選ぶべきでしょうか。

A5 本論に入ってきました。Webでも冊子でも、大学院の表向きの情報は得られるでしょう。まずはそれを熟読します。ですが、それだけで信用してはいけません、なぜなら、いいことしか書いてませんから(当たり前!)。あるていど歴史があるなら、卒業生の進路を見ることや、直接話を聞くことはいいと思います。ただしどちらも得られる情報はバイアスがかかっていると考えてください。前者は成功事例だけかもしれませんし、後者は、どうであれ昔世話になった大学院や指導教官のネガティブな発言はしにくいでしょうから、入学するかもしれない人からの質問ならなおさらです。

 説明会があるなら、まずはそれに参加することです。学科長をはじめ、主だった教員は出ているでしょうから(もし説明会に意中の指導教官がいないなら、事務の人に連絡手段を聞きましょう)、そこでどのような指導体制になっているか、礼儀を踏まえて聞くといいでしょう。こう聞くといいでしょう。

「入学を検討している者ですのでお聞きします。大学院は自主的に学ぶ場所であることは承知していますが、必要な指導助言はきちんと受けられるのでしょうか、指導教官の方は責任をもって指導してくださいますか」

上記をその場の状況で柔軟にアレンジして聞きます。そこでの学科長や担当教官の発言は後日のためにメモしておきましょう。入学後、「大学院で指導が受けられると思うのか、一人でやるもんだ」とならないための担保です。

 

Q6 指導教官をどのように選ぶべきでしょうか

A7 重要です! 本来大学院の教員であれば、学位取得まで必要十分な指導助言をする能力が備わっているべきですが、残念ながら現実にはそれは担保されていません。大学院の設置基準には無論教員組織も要件を備えていることが要求されますが、多くは外形的なことで、研究指導能力をその時点で備えた教員であることはわからないのです。学部教員が大学院の教員をそのまま兼担するのも背景にあります。もしQ5にあるように、「必要十分な指導体制は備わっていますか」と質問して学科長などが「我が大学院は文科省の要求する設置基準を教員組織においても満たしています」とだけしか言わないなら、残念ながらはだなだ疑問です。それは書類だけの審査なのですから、現時点での教員のアクティビティや教育指導へのモチベーションの高さなど、わかりません。

 大学院での学びは、「いかに良き指導教官(Mentor)につくか」に尽きると言っても過言ではないのです。

 

Q7 では指導教官の資質は?

A7 最重要です! 「指導者本人が過去から現在までばりばり院生の研究分野で仕事をしてなくて、どうして指導できますか?」

上記より指導教官は現役でかつ実績のある研究者であるべきです。学科長などは実績に問題はなくても現在多忙な場合(あるいは言い訳にする場合)があります。実際に指導を受けられるかあらかじめ念を押して聞いておきましょう。

医療系であれば、指導教官になる人の、「あなたの研究分野」の研究実績をPubMedで探します。最近5年以内*で、英文原著筆頭(ないしは真の直接指導共著含んで)5本以上が条件でしょう。和文原著(査読付き)は英文より評価できませんが、分野によっては良しとしうるので、医中誌を調べましょう。なおこれらは失礼でもなんでもなく、当たり前のことです。研究者の業績は常に開示されるべきですから。

Exercise IM Mentorの場合、以下を参照ください。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed?term=Inoue%20Kazuo

この中で社会医学、臨床医学研究あるいはMatsumoto M, Kobayashi Y, Inoue M, Akimoto Kなどが共著に入っていたらそれは私です。そのTitleやAbstractを読んで、自分が指導を受けるに足る現在および過去の業績量か、そして自分の研究分野と大枠で同じか確かめるのが一番確実な方法です。

*文部科学省の科学研究費助成でも、申請書に書けるのは最近5年以内の業績のみです。それ以前の業績を持ち出すのは言い訳にしかすぎません。

 

要注意点

①指導教官が他分野の出身(横滑り)のことがある。その場合、その分野の研究指導はまず期待できません。基礎医学の業績で社会医学の教授になることもあるのです。

過去の業績が良くても、例えば5年間その研究分野の筆頭(ないし直接指導)論文がないなら指導は期待薄である。もし10年ないなら、絶望的である。最初からないのは、論外です。日進月歩の科学研究の最先端を見知っていないということですから、その時点において院生に原著論文を書かせることなどできません。

③大学院で研究中には、他の優れた研究者の指導を仰いだことが良いこともある。そうしたことを認めるかどう確認しておきます。でないと、学業中「籠の鳥」になりかねない。

④その分野の有名人? メディアによく出ている? 一切関係ありません。

⑤教授でも英語筆頭原著論文がない(あっても1-2本)人がいます、信じられないことですが。そういう人は、院生をとるべきではないですね(それで資料に指導すると謳っていたら、噴飯ものです)。

 

例えば教授と言っても、(名誉職みたいに考えているのか)教育指導が好きでない人や、指導能力やそれに足る実績がない人がいます。建前と本音の乖離です。貴重なお金と時間を、無駄にしないようにしましょう。

 

Q7 指導教官と思う人の実績が明らかに不足しています

A7 その博士課程には行くべきではありません。人間だれしも、自分がしてきたこと、そして今していることしか教えられません。人に教えるには、その分野の豊富な経験がないといけないのです。たとえ研究本体は院生が一人でやれたとしても、例えば論文の投稿先決定、雑誌とのやり取り(Correspondence)、そして論文校正などいくらでも経験者のアドバイスが必要な局面があります。自分が豊富にしてきてないことを、できるわけはありません。IM Mentorは最近、大学院での学びで困惑している人からの相談を多々受けています。そのほとんどが、研究指導者の問題です。例えば、その研究室の属する大学院のWeb資料(いかにも人を誘うような美辞麗句ばかり)を見て、その後その指導教官の業績をPubMedで見て呆れたというか驚いたことがあります。詳しくは言いませんが、「指導者本人に英語筆頭の原著論文がなくて、どうして院生にそういう論文を書かせられる、指導できるのでしょう。」

 

Q8 ではどうすればいいのでしょう

A8 指導教官の実績分野は、あなたの研究分野と同一でなくてもいいのですから視野を広げて考えましょう。社会医学であれば、その範疇でいいのです。経歴や業績を調べて、自分の研究分野と大枠で通じるものがあるかどうか調べてください。一番大事なのは豊富な研究経験と現時点での実践、そして教育に熱心であることです。たとえば私の実績は以下にあります、どうぞ客観的に厳しく判断してください。

http://www.teikyo-u.ac.jp/graduate_school/mph/index.html

大学院を選ぶのは最終的には自己責任です。周到な下調べをして、納得して検討しましょう。はっきりいって、少数かもしれませんが行く価値が疑問であるところもあるのですから(残念ながら現実です)。そういうところは誰も行かなくなって、淘汰されるべきでしょう。

 

関連項目:指導教官の業績評価

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