平成28年度科研費研究成果報告(H25-28)

機関番号 32643

研究種目 基盤研究(C)

研究期間 2013~2016

課題番号 25516015

研究課題名

(和文)東日本大震災および原発事故が東北被災3県の医師分布に与えた影響の解明

(英文)Effect of the Great East Japan Earthquake and nuclear power plant accident on the local distribution of physicians.

 

研究成果の概要(和文)

東日本大震災は自然大災害として、被災した地域社会の基盤を揺るがした。本研究では、被災地域で医療の中核を担う医師の分布における震災の影響を調査した。その結果、(1)3県(岩手、宮城、福島)の調査で、医師分布への津波の影響はみられなかった。一方、原発事故では周辺地域ではあきらかな医師減少が、人口を考慮してもみられた。(2)2県(宮城、福島)の調査で原発からの距離が近いほど医師は流出しており、原発距離100km以上の市町村に比して20-50 kmでは3.9倍、50-100 kmでは2.6倍より原発より遠隔の市町村へ流出していた。また、低年齢および経験年数の少ない医師で流出の程度が大きかった。

研究成果の概要(英文)

The Great East Japan Earthquake shocked the basis of communities as a natural mega-disaster. This study examined effect of the disaster on the distribution of  physicians. First, we examined the three affected prefectures (Iwate, Miyagi, and Fukushima). The results indicated no effect of the tsunami on the distribution of physicians in the affected regions. On the other hand, physicians decreased obviously in areas close to the Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant even after adjusting population of community. Second, we examined the two close prefectures to the Plant (Miyagi and Fukushima). Physicians who worked in close communities to the Plant outflowed into far communities more than those who did not.In addition, younger physicians and those earlier in their careers were more likely to outflow than other physicians.

 

1.研究開始当初の背景

(1)東日本大震災は自然大災害として、被災した地域社会の基盤を揺るがした。被災地域を中心に多岐にわたる影響を将来にわたって及ぼすであろうことは明白であり、多くの観点から検討される必要がある。

(2)社会基盤の一つである医療サービスの中核を担う医師の震災および原発事故の前後の分布動向は、将来においても同種災害が発生した際の予測・対策資料としても重要である。

(3)医師の地理的および診療科分布については、我々のものを含め内外で多くの研究がなされている。しかし、医師と災害に関しての先行研究はほとんどが、災害時の役割や災害時の役割についての記述である。そして、1995年の阪神淡路大震災に関しても前後の医師分布の動向は報告されていない。

 

2.研究の目的

東日本大震災および原発事故が医師分布にもたらした影響について被災3県(岩手・宮城・福島県)の各市町村の主に津波および原発事故被害地における医師分布の変化(減少・流出など)の様相を、各市町村の人口および地理的指標と、指定統計の医師調査資料を組み合わせることにより解明する。

 

3.研究の方法

 今回の大震災および原発事故は、2011年3月11日に発生した。このため、その前後の動向をみるために計2回(2010年、2012年いずれも12月31日時点)の被災3県(岩手、宮城、福島)の医師調査データを市町村あるいは医療施設レベルで集計した。

医師分布の指標としては市町村などの医師数そのものと、医師数対人口比の2つを用いた。医師数の震災前後の変動度合いと、医師調査が行われた時点にできるだけ近い時点の3県の各市町村の人口から、医師数対人口比を算出した。

また、地理的指標として、各市町村および病院の、津波被災地区への至近距離および福島第一原発からの直線距離を、地理情報システム(GIS)を利用して算出した。

 

4.研究成果

 本研究において2つの分析を行い、それぞれ以下の成果が得られた。

研究1

本震災での大きな災害は津波と福島第一原発事故である。したがってまず医師数分布における津波と原発事故の影響を東北3県(岩手、宮城、福島)で評価した。医師分布は(1)市町村ごとの分析、(2)地理的位置が正確に把握できる病院勤務医師について、震災前後での医師数の変化を津波及び福島第一原発の距離で層別化して調査した。

その結果、岩手、宮城、福島の総医師数の変化は各々0.2%、 0.7%そして−0.7%であり、福島のみで総医師数が減少していた。市町村レベルでは医師数人口比でみたとき、原発事故による居住制限区域内でのみ医師数は減少していた。位置情報が正確に把握できる病院レベルの医師数において、津波の影響は津波からの距離によらず観察されなかった。一方で原発からの距離では病院医師数は0-25kmの圏内で-3.3%、25-50kmの圏内で-2.1%と減少していた。さらに、個々の病院レベルで原発からの距離を見た場合、原発に近い病院では、医師数の減少の度合いがより大きくなっていた。

結論として、医師分布に対する津波の影響はなかった。対照的に、原発事故は周辺地域で医師減少をもたらした。

 

なお、本研究の成果は現在、医学雑誌に投稿中である(PLOS ONE)。

 

研究2

東日本大震災における福島第一原発事故における以後の周辺地域の医師の動向(流出および流入の合計による医師数変化)について検討した。研究1では、2つの主な被害である津波と福島第一原発事故の各々について医師分布に与える影響を調査した。その結果、津波と福島原発事故では、前者は医師数の減少を起こさなかったのに対して、後者では原発に近いほど医師が減少していることが示された。そのため研究2では、福島第一原発事故に焦点を当てたものである。

宮城、福島の2県を対象として市町村単位で、福島第一原発からの距離で層別化して震災前後(2010年、2012年)での医師分布の変化を、医師数人口比を主指標として観察した。

その結果、①2県全体での全医師数人口比の変化は福島で-1.9%、宮城で+3.2%と対象的であり、原発至近地域を含む福島県で減少していた、②2県を合わせて、原発から医師の勤務市町村の距離で層別(20-50km, 50-100km、100km以上の3カテゴリ、20km未満は居住制限区域を含むため除外)した。2県の原発距離100km以上の市町村に比して20-50 kmでは3.9倍(95%信頼区間2.6-5.7倍)、50-100 kmでは2.6倍(95%信頼区間1.7-3.8倍)より原発より遠隔の市町村へ流出していた。その中でも医師の特性としては、低年齢および低経験年数の医師がそれ以外と比べてより多く流出していた。本研究において、やはり原発に近い地域により多い医師流出が観察された。また、低年齢および低経験年数の医師を当該地域に保持する施策の必要性を示した。

本研究については既に、論文として出版済みである(PLOS ONE、下記参照)。

 

東北大震災においては、その死者の大多数が津波被害によるものであった。しかし、津波での医師分布の変化は見られなかった。一方で、原発事故による直接の死者はいないものの、本研究で示されたように医師分布への影響が見られた。原発事故周辺地域における復興を考えたとき、医師分布の改善が課題であると明らかになった。

 

5.主な発表論文等

(研究代表者、研究分担者及び連携研究者には下線)

 

〔雑誌論文〕(計 1件)

Kashima S, Inoue K, Matsumoto M. Characteristics of physician outflow from disaster areas following the Great East Japan Earthquake. PLOS ONE 2017;12:e0169220.

https://doi.org/10.1371/journal.pone.0169220

 

〔学会発表〕(計  件)

 

〔図書〕(計  件)

 

〔産業財産権〕

 

○出願状況(計  件)

 

名称:

発明者:

権利者:

種類:

番号:

出願年月日:

国内外の別: 

 

○取得状況(計  件)

 

名称:

発明者:

権利者:

種類:

番号:

取得年月日:

国内外の別: 

 

〔その他〕

ホームページ等

https://e.jimdo.com/app/sd52a8e8570c657d6/p495cf9ed07c31699/?cmsEdit=1

 

6.研究組織

(1)研究代表者

 井上 和男 (INOUE, Kazuo)

帝京大学・医学部・教授

 研究者番号:70275709

 

(2)研究分担者

 松本 正俊 (MATSUMOTO, Masatoshi)

広島大学・大学院医歯薬保健学研究院

・教授

 研究者番号:40348016

 

(3)研究分担者

鹿嶋 小緒里(KASHIMA Saori)

広島大学・大学院医歯薬保健学研究院

・助教

 研究者番号:30581699