平成27年度科研費実施状況報告書(抜粋)

9.研究実績の概要(Summary of Research Achievements

 平成27年度は、東日本大震災の2つの主な被害である津波と福島第一原発事故の各々について医師分布に与える影響を調査した。平成26年度の予備解析(二次医療圏)で、津波被害による医師分布への影響は軽度である一方、原発周辺の医師の減少は二次医療圏での分析でも明瞭に見られており、本年度はそれを更に細分化して検証した。具体的には、岩手、宮城、福島の3県を対象として市町村単位、および(病院医師について)病院所在地ごとについて津波および福島第一原発からの距離で層別化して震災前後(2010年、2012年)での医師分布の変化を観察した。その結果、①3県全体での医師数の変化は全、病院および診療所医師で各々0.20.7および-0.7%で、診療所で微減していたが、それ以外では減ってはいなかった。ただし全国平均と比較するといずれも低かった。②津波に関しては、浸水地域より近隣(5km以下)の病院で医師数の軽度の減少を認めたものの、医師数対人口比で見た場合には減少はどの層別距離においてもみられなかった。③病院所在地別の福島第一原発からの距離で、(20km圏内では当然ながら居住制限区域のため著しい医師の減少がみられたが)それ以外の21-50kmおよび51-75kmで病院医師が全体として3.2%および4.3%減少しており、各々の病院別の調査でも同じ傾向であった。なお、76km以上の地域では減少はみられなかった。以上より、東日本大震災の2つの主被害である津波と福島原発事故では、前者は医師数の減少を起こさなかったのに対して、後者では原発に近いほど医師が減少していることが示された。結果として、平成26年度の予備的解析で形成された研究仮説を裏付けるものとなった。

 

10. キーワード(Keywords

東日本大震災、医師分布、津波、原発事故