著者と読者の違い

これを理解することは実はとても重要です。

 

Author(著者)

*原義はラテン語にある Auctor:作り出す人、増やす人

知識を作り出す、増やす人と考えたらぴったり来ます。ですが少なくとも現代のAuthorにはもう一つの以下の役割があると思います。

「作り出した知識を伝える(読者が理解できる方法で)」

Reader(読者)

*説明は不要かもしれませんが、単に行為としての「読む」以外に「解釈する」や「思考する」が含まれているようです。

 

1. Authorは論文の全てを作り出すし、作らねばならない。Readerは、論文の全てを読む必要はない。

2. Authorは自分の作り出したもの全てを、Readerが解釈できるようにわかりやすく提示しなければならない。Readerは、読みにくければその論文を放り出すであろう。

3. Authorは手順に沿って研究を行い、努力を払う。その成果が世に出れば評価を受ける。Readerは、その研究について努力する必要はなく、果実をうけとることができる。

 

「なぜ官僚は増え続けるのか」で有名なパーキンソンの法則には、以下が含まれています。「人は自分の関与することは重要であると思いこむ」

4. Authorは上記の法則に束縛されやすく、自分の書いている論文を過大に重要と思いやすい。Readerは、「勿論そんなこと知っちゃこっちゃない」。

5. したがって本来的に、常にReaderはAuthorより冷静である。

上記から導き出されることがあります。

1-3から、Main text sequence(論文を作る順序)がなぜそうなのか。

4-5から、Paper writing wheelを作るもう一つの理由。

次に書いていきます。

Main text sequenceの理由:読者と著者の違いから

Submessage:本文ではIntroductionが肝である


論文を作る順序ですが、論文を手に取った時にReaderがとる行動を考えてみましょう。あるいは現代らしく、PubMedなどで興味あるキーワードである論文の抄録まで読み、運よく興味を示して論文全部を入手した段階でも構いません。

*なお以下はInoue Methods作成者が考える典型的手順です。当然これだけとは限らないことを念頭に置いてください。

 

1. まずTitleで文献を探し、選別する。

 

2. Abstractを読む

*ここまで行って運よく、その読者は論文本体(PC上のPDFでもいい)を手に入れたとします。はたしてどこから読者は読むでしょうか?

 

3. 本文のTablesとFigures、つまり図表に目をやる、でしょう。図の説明として本文のResultsを端折って読みます(読まずにすめばベター)。

*Abstractで既に主な結果はわかっています。Title、Abstract、Tables  & Figuresと一瞥をくれたとして、その次は?

 

4. Discussionの冒頭にあるMain findings(主知見)を確認する

*AbstractのInterpretation(あるいはConclusion、つまり解釈や結論)で明白ならここは省略するかもしれません。

 

5. Introductionで、この論文のWhat thid study adds.(この研究でわかったこと)がどういう意義づけがあるかチェックする。

*特に最初の段落で論文の位置づけをすると思います。読者にとっては、早めにこの論文が言おうとしていることの背景を知りたいからです。

*本文のIMRAD

 

6. MethodsとDiscussionの残りは、特に理由がなければ読まないことも多いでしょう。

*同分野で研究していて、細部まで知りたい

*興味がわいてさらに読みたくなった(これは滅多にない)

*首をかしげるところがあるので読んでみる

 

Note

1. MethodsとDiscussion(特に前者)を読まなければ論文の評価ができないではないか、という意見があると思います。確かにその通りなのですが、既に掲載された論文はEditorと複数のReviewerというPeer reviewを受けているのです。そして全ての論文に対して批判的評価(Critical appraisal)をしないと思います。

 

2. 読者は、Title(=検索にもここを見る)、Abstract、Figures and tablesまで見て、内容のあらましはわかっています。後はIntroductionでこの論文の評価を概ね下すでしょう。

 

したがって、Introductionは読者が本文を読んでくれるかどうかの勘どころなのです。

Editor(編集者)とReviewer(査読者)

Editor(編集者)とReviewer(査読者)の立場からも、結論としては同じです。Introductioが重要です。なお、彼らは第1読者でもあります。

*番号は上記を参照ください。

 

Editor

1. ほとんどの場合2か3まで詳しく読んで、Reviewerに回すかどうか決めると思います。

 

2. 本文はやはりIntroductionにまず目が行くと思います。その論文に記載されている研究の意義と、その内容が雑誌の出版範囲(Scope)にあるかを評価するために。

 

 Reviewer(s) 通常2-3名です

2.ReviewerはEditorが回してきた、すなわち門前払いをしてないということで、3まで行ってとりあえずの判断を下します。そして後は通読するでしょうが、そこで少なくとも2つの読み方をすると思います(原著の場合)。

 

*Does this study really add what the authors indicated to be original and new. (著者が新規性、独創性のあると主張する事柄がこの研究で本当にあきらかになっているか)

→Introductionで著者は、この論文が明らかにしようとしていることが新しく独創的でする価値があることを示す。

 

*Is this paper written for readers to understand easily its content.(その内容を読者が簡単にわかるように記載されているか)

→文章全体にそうだが、必要十分な語数、図表で簡潔に説明されていること。特にIntroductionではせいぜい500語(英文)まででこの論文の意義を示す。

Paper writing wheelの理由

読者(編集者、査読者含む)は、常に本来的には著者より冷静です。当たり前です、客観的に読むのですから。著者は多かれ少なかれ、Writer’s high (Runner's high)に書いているときは支配されていますから。

 

Inoue Methods作成者はよく査読を頼まれますが、評価を下す時に感じる疑問として以下があります。

 

疑問:どうしてこの研究結果からそんなことが言えるのか

 

常に著者はOverstatement(言い過ぎ)のリスクにさらされています。意識上であれ、無意識上であれですが。ですので、作成中は常に基本4点セットに戻り、特にOriginality boxと「現在」書いている部分を照合させるとよいでしょう。