月刊「災害補償」

地域医療を目指して
月刊災害補償の依頼原稿です。この投稿を読んで思うことがあります。それは、この投稿から16年たち、地域医療「学」は深化してきただろうかということです。私が書いていることは、関係の方々なら誰でも言えることです。その実現のためには何が必要かが問われており、まさにそれを学究していくことが求められています。

*発行元である地方公務員災害補償基金の許可を得ています(2012/2/17)。
1996地域医療を目指して.pdf
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上記の関連項目として、「その他」の眼高手低をご覧ください。

月刊「厚生労働」

月刊「厚生労働」2009年11月号より抜粋

地域医療学の課題:二つの「学」

 最近になって、多くの医学部・医科大学において「地域医療」に関する講座や部の設置が盛んに行われている。設立の主旨(ミッション)は、短期的には医学部入学定員の増員(いわゆる地域枠)に対応しているが、長期的にはへき地など医師不足が顕在化している地域に貢献する人材づくりであることは言うまでもない。こうした講座が、ミッションを成功させていくためには何が必要なのだろうか。地域医療に「学」をつけて「地域医療学」とした所以は何であろうか。私は、主に2つの「学」がこの講座に必要と思う。

 

学習の「学」:誰から学ぶのか

(中略)地域医療は、大学病院ではなく人々の住む地域で、予防・治療・社会復帰を含めたものとして学ばれなければならない。ではそうしたことを教えることができるのは誰であろうか?

 (中略)多くの医学生が、入学時には地域医療やプライマリ・ケアを目指すのに医学部6年の間に各科のスペシャリストになっていく。医学部6年間の勉学中、各科スペシャリストのお手本(ロールモデル)は多くいても、へき地などで実践してきた、実際にそのやりがいや喜びを伝えられる人材がほとんどいないのが事実である。この点で、学生に背中を見せることのできる地域医療の実践者が教育を担うことの決定的な意義がある。若い外科医を育てるのは、指導者の経験とメスさばきに基づいた教育指導である。地域医療の実践者も然りである。

 

学究の「学」:何を究めるのか

 どの学問でも言えることだが、一つの分野としてある主題が確立していくには、研究が不可欠である。(中略)一体、地域医療の本質は地域にあるとして、例えば地域医療実習のみを企画し、それらのまとめを講義で話すだけなら、こんな講座はいらない。「我々はここにいる、そしてこういう問題に直面し、こうやってきた」、それらを後進に伝えていくには、地域医療学の中で独自に追求されるべき研究が必要だ。


 それでは、そのような研究は地域医療の現場で可能であろうか? 私はイエスと答える。(中略)地域の日常診療で通り過ぎていくところに価値あるテーマはあり、それを究めていくのが地域医療の「学問性」である。これを私は、Practice based researchと呼んでいる。

価値ある研究結果です(阿波谷論文から)
価値ある研究結果です(阿波谷論文から)

New! Practice based researchの実践例

 高知大学医学部家庭医療学講座 阿波谷敏英教授の論文です。まさに臨床現場に基づいたPractice based researchです。トピックも重要で、それにも関わらずこのテーマの研究はほとんどなされていません。もっと評価されて良い論文とお思います。 

死亡前一年間の医療および介護費用の検討(季刊社会保障研究 Vol.40 No.3:236-243,2004)

 

自治医科大学年報

自治医科大学年報第37号より抜粋

今、自治医科大学を考える

 自治医科大学の設立趣旨、つまりミッションは地域の医療機関で勤務するジェネラリストを育成し、地域に送り出すことであると理解しています。事実、自治医科大学の設立コンセプトは世界的に見てもユニークであり、注目されるものでした。私の共同研究グループによる自治医科大学のアウトカムに関する論文が、World Health Organizationのへき地医療確保のためのPolicy Recommendationにおいてエビデンスとして掲載されたことはその証左です。であるならば、再度ですがそうした現場での臨床に根差した教育と研究をより推進していくべきであろうし、地域医療の再構築の拠点としてその先端を走っていってほしいと思っております。

 現在、多くの大学で地域医療学や家庭医療学の寄附講座ができつつあります。その講座教員の中には、現場の地域医療を経験した人が入るべきです。事実、いくつかの講座では現場を経験した自治医科大学卒業医師が教員になっており、喜ばしいことだと思っています。これからは、地域医療の経験を伝えるだけでなく、教育そして特に研究の充実が求められます。自治医科大学には、その先駆を走ってほしい。地域医療学・家庭医療学での教育者、研究者の輩出と、それによって全国のそうした講座に人材を提供し、リードしていってほしいと思います。そして卒業生には、私のようなキャリアもあることを伝えたいと思います。

 一つだけ、ここで敢えて苦言をいいます。全国の医学部に地域枠の入学制度ができ、それによる医学部入学定員が毎年800人増えています。この中で、優秀な学生が集まらなくなる、あるいは大学の独自性と存在意義が薄れるなどという危惧があると聞きました。そのような危惧が大学内にあるとすれば、私はお聞きしたい。

①設立から今までの30年以上にわたる十分なリードタイムがある。その間に何をしてきたか。ミッションを実現するための方略を常に革新してきたか。官僚主義や停滞に陥っていないか。

②私が入学した頃と比べて今の入学定員はわずか1割程度の増加であるが、その間に大学はかなり規模を大きくしたことは外部から見ても容易にわかる。それらは、純粋に大学のミッションに沿ったものなのか。また投入資本に見合った成果は出ているのか。ちなみに、国公立大学の地域枠は、学生一人当たりに投じられている県費は自治医科大学の三分の一以下と聞く。

 先程述べた地域枠との関連で申しますと、その共通ミッション、「地域医療に貢献する医師を輩出する」という達成目標の点からのCost -effectivenessつまり費用対効果比が比較される日がいつか来るでしょう。医療のみならず医学教育においても、そのアウトカム(成果)からみた投入資本の効率性が問われる時代になってきていると思います。私の苦言が杞憂になるとすれば言うことはありませんが、母校には来るべき時代もこの分野をリードしていってほしい、そしてそのための準備をしてほしいと思っています。